討議:簡裁の事物管轄の拡大

(司会)
 簡裁の事物管轄の拡大が議論になっていることは各職場でもお分かりになっているかと思いますが,どのような点に関心を持っておられるか個人的なことでも結構ですのでご紹介頂きたいと思います。
(A)
 私は簡裁に勤務していますが,事物管轄により現在よりも事件数が増大になっても現状のままなのかということが職場で一番話題になっています。分会での交渉においても仮に事件数が30%増えても係が増えるとは限らないというのが当局の認識です。事件数の増加に見合った増員をする考えは毛頭ない,要は地裁との棲み分けで人員をどのようにスライドさせるかという問題だけだと当局から言われていて一体,どうなるのかというのが職場で話題になっています。
(H)
 現在,少額訴訟の訴額は,基本的には30万円以下で金額も少ないが弁護士のつく事件も少ない個人の訴訟が多いです。来庁された方には通常訴訟と少額訴訟の違いを説明して,●●なりのやり方でやっています。当事者一人当たり1時間ないし1時間半ほどかけて説明したうえで受付をしています。少額訴訟の訴額の引き上げの関係でいいますと,●●簡裁の場合,30万円を超えた場合でも少額訴訟のノウハウを生かして個人でやりやすいように,市民型といわれる業者以外の事件を個別に番号を付けて立件しています。そういう意味でも訴額が増えても受付としてはあまり負担にはならないと思われます。
(A)
 少額訴訟が受付から上がってきたら,部でも20分ほど話を聞いています。現在,●●簡裁では書記官1人当たり月2件くらい回っていると思います。少額訴訟の時間は昼から1時間くらいかかっています。それが事件数が増加すると現状では法廷が入りきらないと思います。また,ある程度時間を割いているので国民の方からすればある程度,満足してもらっているのではないかと思います。しかし,事件数が増大すると現在のようには対処しきれないと思います。
(T)
 ●●の場合,少額訴訟の金額が90万円まで上がることについては,特に恐れてはいません。金額だけの問題なら,実務としては少額訴訟と同じような手間をかけて通常訴訟の中でも準少額型とし位置づけてやっているものがあります。し
 しかし,職員の間で一番関心があるのは簡裁の訴額の上限がどうなるかというこ とです。また,金銭に換算できない厄介な事件が増えるのではないかと危惧して います。
(本部:T)
 先ほど,●●簡裁の方から少額訴訟の話がありまして,その中で30万円を超えた分でも少額訴訟に準じた扱いで行うケースがあるとのことですが,●●簡裁の場合,準少額訴訟という名前で同じように30万円を超えても少額訴訟と同じようにできる事件を類型化して,例えば敷金,賃金等の事件を少額に準じた扱いでやろうということになっています。具体的な数字でいいますと,各書記官1か月に2件はやってくれと当局の方から言われています。もしもそれが少なかったら,適当な事件がなくて入れなかったとするとなぜできないのか,成績を上げたいという意図があるのかどうかわかりませんが,当局からそういう言い方をされるのです。それで,ふさわしくない事件であっても取りあえず準少額訴訟として立件し,後で通常訴訟に移行するといったことがなされています。●●と異なるのは立会いの担当部署に配填されてから準少額訴訟にするかどうか判断していることです。したがって,準少額訴訟の場合は事前準備で面接をした後,担当部署でも面接して初めてそれにするか判断するのです。その結果,準少額訴訟にするかどうかわからないうちに面接して結局,準少額訴訟にしなかった場合は通常事件として立件することになり,余計な手間をかけたことになるのです。当事者からすれば事前に書記官が原告からだけでも話を聞いて手をつくしてくれているという点では満足度は高いと思われますが,その反面,書記官は通常の立会い,少額訴訟の面接,さらに準少額訴訟の面接も有り,結果として徒労に終わるかもしれない手続きもしなくてはならないという負担感があるといわれています。訴額の問題についてですが,少額訴訟の訴額が上がったとしても準少額訴訟という手続きを実施していることもあって恐れることはないと思います。しかし,人的配置はどうなるのかという問題は残ります。また,通常訴訟の事件数がどうなるかという問題があります。さらに少額訴訟の期日は大体1時間くらいかけていることが多いのですが訴額が変更になったら期日が現状のように入るのかという問題が出ています。一時期,テレビで紹介されて少額訴訟の人気が急上昇して東京では受付相談センターに来る人が10倍くらいになったことがありました。そのため,期日も1か月ないし1か月半くらい先でないと入らなくなったのです。当事者からすれば,少額訴訟はすぐにやってくれると思っているので,かなり批判もありました。裁判所としては迅速に裁判をするということがどれくらい担保されるのかという問題が●●では出てくると思います。また少額訴訟と言いながら,同じ東京都内在住の原告と被告というよりも,他県からの当事者が来て少額訴訟をやりたいと申し立ててきた場合に期日をどうするか困ってしまうのです。当然,相手方は欠席ですから,それだったら通常訴訟でやってくれということになるわけです。そのようなケースが●●では多く,事件数が増えた場合に期日の入れ方をどうするかが問題となると思われます。
(O)
 家裁と簡裁は戦後に新しくできた裁判所ですが,簡裁の裁判官は司法試験に合格していなくてもなれるわけです。そして司法委員という形で国民が裁判に参加できるという制度があります。司法制度改革によって訴額が上がるだけではなく裁判所自体が変わるのではないかと思われます。なぜなら,裁判は立証するのに時間がかかることが多く,一回で終わらせようとすれば簡単な立証で決めるわけですが,訴額が30万円と90万円では事件の内容も変わってくるし,当事者の気持ちも変わってくるわけです。それが訴訟の進行にも関わってくるのではないかと心配しています。
(S)
 簡裁の訴額については,時代も変わってきており,上げるべきではないかと感じています。地裁の窓口にいて100万,200万の貸金や賃金を払ってほしいという訴訟が来るわけですが地裁ではなかなか難しい面があります。そして弁護士をつけるまでもない事件や弁護士自身も受任したがらない事件もあります。そういった場合に当事者の希望に答えられるのは簡裁ではないかと思います。
(O)
 そういった面もあると思いますが,地方裁判所というのはあまりにも当事者に冷たすぎるのではないかと思います。地裁では当事者に対して説明はしなくてもよい,書面の書き方も定型のものを渡せばよい,そんなサービスはしなくてもよいと言われたことがあります。簡裁にも定型の訴状がありますが,例えば貸金訴訟で争いがなければ簡裁でやろうと地裁でやろうと同じはずです。地裁では調書を作らなければならないということがありますが,簡裁では調書は省略してもよく,地裁よりも簡易な方法で判断するわけです。そのような手続で判断するのにどのくらいの訴額が妥当なのかということを考える必要があると思います。現在昔の訴訟手続をそのまま頑に厳しい立証をしている裁判官が多いと思います。そういった中で,訴額を増額した場合に果して元々この制度が持っていた良さを生かせるのか,簡裁の簡易な手続きがどうなるのか問題となると思われます。そういうことを考えると訴額の増額は時期尚早だと思います。
(N)
 私は地裁に勤務しているのですが,本人訴訟なんかやめさせてほしいという雰囲気があります。簡裁では隣接職種の人が代理人となって出てくるわけですが,そうなったら本人訴訟でもよいということになるわけです。しかし,司法書士の中にも変な人がいて困ることもあるのです。
(O)
 私は司法書士が入ってくることについては注目しています。というのは,例えば簡裁の事件で被告に債務があって,40数%の金利で借りていた人が18%に引きなおして計算しなおした場合,過払いになることがあるのですが,そういった過払訴訟の裏で糸を引いているのが,大体の場合,司法書士なのです。司法書士が後ろについていると破産宣告,免責決定まで持ち込むことが多いのです。司法書士が代理人になった場合,破産制度と訴訟制度との関係が変わるかも知れません。しかし,そうなると書記官は忙しくなると思われます。
(T)
 ●●では司法書士の介入は,現場の雰囲気としては反対です。というのは,●●の司法書士の質が悪いからです。司法書士の作成した書類には良くないものが多く,書記官の負担が大きいのです。
(K)
  少額訴訟の訴額を上げる件ですが,●●簡裁では訴訟や調停等,何でも担 当するので少額訴訟に事件を割かれると令状事務に対応できなくなることがあり ます。また,来庁者については,窓口で1時間くらい話をすることが多いです。
(O)
 少額訴訟の手続の進め方についてですが,私の担当していた係では基本的に午前中は一般の事件を入れて,一回で終わらせるようにして午後1時半くらいから同じような形で弁論を入れるか証拠調べを入れていたのですが,2時あるいは3時から少額訴訟や市民型訴訟を入れていました。しかし,被告が遠方の場合があり,欠席裁判になる可能性が高い事件については,午前中に期日を入れていました。ただ万が一,被告が出頭した時に備えて午前11時に指定して司法委員を依頼することもありました。また,全く争いのない事件については場合によっては午前10時に入れて和解の準備をしていました。このように書記官は事件の内容を見極めて期日を入れる必要があります。これは民事を何年か経験しないとわからないと思います。今回の公務員制度改革では簡裁のランクが下のようになっているのです。簡裁は経験がなければいけないのに,一番,能力の低い書記官を配置する裁判所ということになっているのです。これは簡裁で勤務している者を馬鹿にしていると思うのです。
(T)
 私の印象では,訴額100万円前後の事件では殆どが交通の物損事件です。その他,人損で100万円前後の事件や休業損害,慰謝料請求等で高度の後遺障害の事件では訴額が1000万円を超えるのですが,そういった事件が簡裁の管轄になるということは私個人としてはいいことではないかと思っています。また,先ほど司法書士を批判されている方がおられましたが,私は現在,保全事件を担当しているのですが,司法書士が関係していることが多いです。司法書士が裁判所に色々と聞いてくるのですが,こちらが言ったとおりのことは大体,ちゃんとしてきます。司法書士は一定,裁判所の仕事内容や必要な書類がわかればやってくれるのではないかと思います。
(本部:I)
 現在,司法書士は2つの流れがあります。一つはリーガルサポートセンターを各地に設置したいということです。司法書士には試験で合格した人と認定で司法書士になった人がいますが,後者は登記業務をやっていた人に法務省が司法書士の資格を与えたものです。その認定司法書士が裁判に関与してくることは賛成していないと思われます。今,司法書士がやろうとしているのは自分が代理権を持つというだけではなく,リーガルサポートセンターを各地に作って本人訴訟を支援していこうという考えがあります。訴額が90万円から200万円くらいであれば,弁護士費用を考えれば本人訴訟でやるしかないという当事者が多いので,そこを積極的に支援していこうというものです。もう一つは成年後見制度で財産管理機関をリーガルサポーセンターでつくっていこうというものです。司法書士の試験の受験科目が大幅に入替えがあって,憲法が入ることになっています。そして法律的能力を高めようというものです。司法書士が裁判所に出てくるためには一定の手続の練習が必要だと思います。また,司法書士が裁判所に参入できるとなると,社会保険労務士も参入させてほしいといってきます。社会保険労務士が労働事件について具体的に参入することについては弁護士会は反対の姿勢をとっています。少額訴訟について司法書士が代理権を有することになるのに社会保険労務士が労働事件について参入してはいけないのかという議論があります。司法制度改革審の意見書では隣接する法律職種の中でみると,今,法案として出されているのは司法書士と税理士,弁理士そして社会保険労務士も入っています。だから司法書士を参入させるということは,他の法律関連職種も参入させることも前提としているといえます。したがって,司法書士が参入するときには,我々はきちんとした対応をしないと,さみだれ式に色々な職種が入ってくる可能性があるのです。司法書士はどうあるべきかということを我々の側からはっきりさせ
ておかないと将来に影響を及ぼすことになると思います。




© Rakuten Group, Inc.